まだ一冊を読了したわけではなく、薦められた作品を読み終わったので、感想を書いておこうと思った次第です。いえ、感想とは違うもののになるでしょう。本を読んで、自分の考えたことを書き連ねていこうと思っています。
自分の中で印象に強く残る言葉、観念があります。それが、いつまで続くのか、どれくらい強烈なものとなるかはその時々で異なりますが、少なくともしばらくは頭から離れないものがあります。それを私は勝手に「自分のテーマ」と呼び、このようなブログを始める以前はあ、しばらくテーマについて考えた後、やがて次のテーマが現れるか、現実に追われるか、あるいは考え疲れてしまうかのいずれかの理由により、そのテーマは忘れ去られていきました。忘れるといってもすっかり消えてなくなるわけではなく、いわば自分の中にある「忘却の箱」の中に詰め込まれて地層を形成していくのです。昔のことであればある程、その地層は上からの大きな圧力によって押し潰されて、取り出しにくいものとなります。それがブログという手軽に「残す」手段を手に入れた結果、私の「テーマ」は繰り返し文章の中に直接現われて、物理的に「見る」ことができるようになってしまいました。それがよい結果を生むのか、それとも悪い結果となるのか、あるいは今まで変わらないままなのか。それを知るにはまだ数年はかかるでしょう。
さて、その今の私の「テーマ」の中で今回の本と最も結びつきが強いように思われたものが、閉じた世界/システムでした。小説というもの自体がいわば閉じた世界であり、何とまあ当たり前のことを今頃になって言い出すのだろう、と思われても仕方がありませんが、それでもなぜこのテーマを考え出すに至ったかを説明しておこうと思います。地球は一つの閉じたシステム(宇宙船地球号ですね)です。そのシステム外から来る太陽光(これはまさに恵みです。生命のエネルギーになるわけですから)以外の宇宙線とかニュートリノなどはとりあえず考えないことにして、閉じたシステムであることを前提てすると、環境・資源保護のキーワードが「循環」ということになります。『吉里吉里人』の中に、牛に人糞を与えて、そしてまたその牛の乳を人間が飲む、というアイディアがありましたが、それはまさに究極の、環境破壊を最小限に抑えた自然との共生であると思い至ったわけです。「発見」という言葉は時として私たちを欺きます。あたかも何もなかったところから手品のように何かが生まれてくるような印象を与えかねないからです。しかし、そうではない、つまり隠してあったものを見つけたに過ぎないのです。ところが、人間は「発見」という魔法のような言葉、そして、同じく「発展」や「発明」という言葉で自らを欺きながら、前に向かう矢印を夢見つづけてきました。いえ、むしろ人間だけが直線的に前に進む推進力を持っていると信じてここまでやってきました。しかし、やがて気付かざるを得なくなったわけです。ここは有限の閉じたシステムの中であると。
本作品も閉じたシステムの中に囚われた二世代の女性たちが登場します。二人は親子ですが、母は閉じた世界を呪い、娘は閉じた世界の中の循環を悟るのです。
[:quote:] 春、ザリン・タージは娘にはじめて、砂漠の上高くどこへとも知れず飛び去ってゆく鳥たちをさし示した。鳥たちは人間を憐れむかのように何やら叫び、間もなく永遠に姿を消した。
「なあに、あれ?」ジュマリはたずねた。
「あれは幸せ者よ」母が言った。「山の向うへ飛んで行けるんだから。そこに行けば木には葉が生い茂って、太陽も月みたいに涼しいの」[/:quote:]
母は囚われの身となって連れてこられた粘土砂漠の閉じた世界を嘆くのですが、その先も閉じた世界であることには気付きません。
[:quote:]『わたしの悲しみはなんて始末がわるいんだろう、去って行った者は二度と帰りゃしないのに』[/:quote:]
砂漠の砂はいつも「そこに留まって」いるように感じられます。そして、潤いを全て吸いつくしてしまいますので、人の心は停滞し、干涸びていくのです。しかし、砂の一粒一粒にも歴史はあって、時間は流れているのです。砂は最初から砂だったわけではありません。母の不幸はそれに気付かなかったことなのです。そして、娘は帰ってきます。母とカチグローブのもとに。ゆるやかな弧を描いて、出発点に戻るわけです。娘の不幸は、その弧には時間という軸が加わっていて、実は円環ではなくて螺旋だったということです。つまり彼女は母が眠り、そしてカチグローブがかつていた場所にしか戻れなかったということなのです。
ここにもう一つのテーマが現れてくるのです。それは「死(もっと言えば世代交代)」の意味であり、その対極にあるともいえる「生」とりわけ「今とは何か」です。これは鴎外の『青年』でも少々触れていますが、このテーマに関してはまだ語るべき言葉をもちません。おそらく、この先も語る言葉を持つことはできないでしょう。ですから、ここではそれがテーマであることだけ、文字に残しておこうと思います。
久しぶりにごちゃごちゃと書き連ねました。辛抱強くお読みいただきありがとうございました。そして、何よりも、本作品を薦めて下さったFさんに多大なる感謝を捧げます。
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